2012年5月25日金曜日

久しぶりの投稿です。

しばらく更新しておりませんでした。 tuitterなどもあり、ブログが放置されて、ふと可哀想になったしだいです。 久しぶりに、スタバでコーヒー頂いております。


東大阪市社会福祉審議会

本日は、午後から東大阪市の社会福祉審議会に参加します。 中核市である東大阪市は、社会福祉法に基づき社会福祉に関する事項を調査審議するため、地方社会福祉審議会を設置しています。 東大阪市社会福祉審議会の会長、老人福祉専門分科会の委員長をさせていただいております。 老人福祉専門分科会では、介護保険事業計画作成などの審議に関わってきました。 本日の審議会は、24年度最初の審議会ということもあり、各計画の進捗状況を担当課から説明を受けること。 障害福祉と介護保険・高齢者福祉について、中長期的な課題を取り上げて、審議することになっています。 事前の打ち合わせでは、地域包括支援センターの運営課題、障がい者の地域移行について、取り上げたいと説明を受けています。 どのような意見が出るか楽しみです。


 社会福祉法人の理事会で監事報告


審議会終わり次第、神戸に移動し、社会福祉法人の理事会に出席します。 こちらでは、監事をさせていただいております。 監事報告をしなければなりません。 監査の結果では、法律違反などはありませんでしたが、幾つか事業運営上の課題が確認されています。 理事長の業務執行をチェックするのも監事の仕事です。 理事会で報告されている事業計画が適正に実施されているかを確認します。 栄養士の業務について、説明を受けながら、質問させていただくだけでも、組織上の課題が見えてきます。

2011年11月8日火曜日

保育リスクマネジメント講座をします

大阪府立大学、地域福祉研究センターは、堺市保育リスクマネジメント研究会と共同し、保育士を対象とした「保育リスクマネジメント講座」を企画しました。

3回シリーズで、事故事例に学びながら、保育所における事故防止の課題 について考えます。

公立保育所の保育士さんと民間保育園の保育士さんとの共同の学びの場をもちたいと考えています。


夕方の遅い時間ですが、一緒にに学んでみませんか。

関川がわかりやすく講義します。








2011年10月27日木曜日

福祉サービス第三者評価とは何か

◆「サービス評価とは何か」




「サービス評価とは何か」いう問いに対して、明解に答えることは難しい。というのも、サービス評価といいながら、サービス評価のねらい、評価機関の性格、評価基準、さらには評価方法など、実に様々なものがある。しかも、従来は、高齢者の分野、障害者の分野、児童の分野いずれも、異なるサービス評価の仕組みがつくられていた。

また、第三者が福祉サービスの内容を評価する仕組みは、いわゆる「第三者評価」ばかりではない。第三者が福祉サービスの内容をチェックする仕組みとしてみると、類似の機能をもつものが存在する。

たとえば、行政の監査も、会計および職員配置など最低基準と関わって、福祉サービスの質を確保するものといえる。そこで、監査担当職員は、監査マニュアルに従い、福祉サービス提供のあり方についても問題はないか、点検してきた。

福祉オンブズマンなどのように、第三者が福祉施設を訪問し、サービスの内容や利用者の意見を聴取する仕組みにおいても、第三者が福祉サービスの内容をチェックする機能をもつ。

また、苦情解決の仕組みも、利用者や家族から利用のあり方やサービスの質についての苦情があり、苦情解決の委員会が必要と考えれば、委員が施設を訪問調査し、問題となっているサービスの内容について聞き取りをする。これらも目的は違うが、苦情解決のプロセスにおいて、福祉サービスの内容について第三者がチェックすることになる。

また、利用者の家族や地域の方々が、福祉サービスを選択するための情報を収集する目的で勉強会やサークルを立ち上げ、アンケートなどの方法により、協力してくれる施設から福祉サービスについての必要な情報を収集し、サービス選択に必要な情報を発信する例もみられる。

これに対して、福祉施設を経営する事業者団体においても、サービス評価基準を定め、調査員が会員施設に対し訪問調査し、評価内容を公表するという活動も存在します。多くの場合、これらは事業者による自己点検の一環として位置づけられているが、「第三者」の意義を「当該サービスを提供している当事者以外の者」と考えれば、これも第三者が福祉サービスを評価する取組みとして位置づけることも可能かと思われる。

既にISOの認証を受けている福祉施設もみられる。ISOも、広い視野からみれば、福祉施設が受審するかぎりでは、福祉サービスに対する第三者による評価といえる。さらには、利用者満足度調査も、サービスの質を評価する機能をもつものと位置づけることもできるであろう。

さらにいえば、介護事業に対する情報開示の標準化の取組も、第三者が訪問しサービスの体制などについて事実の確認し、その内容を公表するというものであるから、サービス評価に極めて類似する仕組みとなっている。

こうした状況を踏まえ考えると、「サービス評価」といっても、これに対する認識は、「何をイメージするか」によって、人によってかなりズレがあるのは、当然のことである。また、サービス評価といわれているものでも、サービス評価の実施機関によって、活動の目的や活動内容も様々であった。実際、評価内容も評価結果の取りまとめ方法もかなりの違いがみられた。

国の側では、福祉サービスの「第三者評価」について、「社会福祉法人等の提供するサービスの質を事業者及び利用者以外の公正・中立な第三者機関が専門的かつ客観的な立場から行った評価」であると定義した。その上で、「第三者評価」についてのガイドラインを公表し、必ず行うべき評価基準と評価機関のあり方を定め、都道府県レベルで、評価機関を認証する仕組みの設置を定めた。第三者評価に対する信頼性を確保するためには、評価機関の独自性を認めつつも、やはり基本となる枠組みが必要と考えたからである。

ここでは、福祉サービスの「第三者評価」とは、あくまで「国のガイドラインの定める枠組みのなかで行われる第三者機関による福祉サービスの評価」をいう。したがって、都道府県レベルの認証を受けないで行う「第三者評価」以外のサービス評価も存在する。たとえば、既に先行してサービス評価を行ってきた組織などが、評価体制や評価基準を堅持しようとする場合がありえよう。これらについては、「サービス評価」に違いはありませんが、国のガイドラインに適合しないわけであるから、国がガイドラインとして定めた「第三者評価」には含まれないという整理ができるかと思われる。もちろん、福祉施設関係者は、「第三者評価」以外のサービス評価を受けてはならないというものではない。ただ、施設が受審しても措置費の弾力化という措置に与れないにすぎない。



◆「サービス評価事業の現状 大阪府下を中心に」

以上のことからもわかるように、サービス評価事業の現状は、極めて多様である。各都道府県のレベルでみても、いまだ推進組織が立ち上がっていないところも存在する。福祉施設関係者の皆さんのなかからも「私どもの県では、正式な評価機関が立ちあがっていないので、受審できません」という意見も聞かれる。こうした都道府県においては、サービス評価に対しても消極的な姿勢を見せる事業者が少なくない。どうやら「受けなくともよいのなら、受けたくない」というのが本音のようである。

さて、先行して積極的にサービス評価の体制づくりに取り組んできた都道府県もある。たとえば、東京都などがあげられるが、東京都の取組については、既に月刊福祉の特集で取り上げているので、ここでは大阪府におけるサービス評価事業の状況を紹介したい。

大阪府では、平成十二年七月から「福祉サービスの第三者評価に関する調査検討会」を設置し、サービス評価の実施体制の確立に取り組んできた。平成十四年度には、自ら評価基準を策定し、評価調査者の養成研修も実施した。そして、大阪府下の福祉施設の幾つかは、こうしたサービス評価を受けていた。

ところが、国が平成十六年に「福祉サービス第三者評価事業に関する指針について」(通知)が公表されたことから、先行してサービス評価事業の確立にとりくんできた自治体においては、サービス評価事業の推進にブレーキがかかってしまった。ガイドラインにもとづき、評価機関を認証する仕組みの構築や評価基準の見直しが必要になったからである。それに伴って、評価調査者の養成もやり直さなければならなくなった。

大阪府では、平成十七年度になってようやく実施体制が整った。すなわち、国のガイドラインにもとづき推進組織を設置し、評価機関の認証を行ったところである。認証された評価機関は、平成十七年度六月現在、高齢者分野に対する評価機関として、二十二法人におよぶ。新基準による「第三者評価」事業の本格実施、すなわち福祉施設が認証された評価機関によるサービス評価を受審し、その評価結果が公表されるのは、これからという状況である。なお、既に幾つかの福祉施設が受審を申し込んでいる評価機関もあり、今年度中にも評価が行われる見込みである。

認証を受けた二十二の評価機関は、高齢者に対する評価基準が先行して策定された関係から、高齢者分野の評価機関である。その内訳は、NPO法人が十三団体、株式会社および有限会社が七団体、社会福祉法人(社会福祉協議会)が一団体、社団法人が一団体、という状況となっている。高齢者の分野では、予想されるところはおよそ出揃った状況である。

さらに、障害者および児童福祉分野については、十月に行われる第二回の認証申請において、新規認証申請を受付ける。また、既に認証を受けている機関は、評価実施分野の変更(追加)の届出をすればよいことになっている。介護と並んで大きなマーケットになると思われる保育の分野において、どのような評価機関が認証の申請をしてくるのか、関心がもたれるところである。

既に認証されている高齢者分野の評価機関についてみると、評価機関の性格は幾つかのグループに、分けられる。社会福祉法人である大阪府社会福祉協議会をはじめ、NPOなど非営利法人、そして株式会社および有限会社である。

大阪府社会福祉協議会は、高齢者分野に限らず、他の分野についても、そして府下全域を対象として「第三者評価」を行うのでしょう。これに対して、NPOなど非営利法人については、組織の性格から、高齢者の分野に限定し、地域密着で「第三者評価」事業を展開すると思われるものも存在する。NPOなど非営利法人の性格も、これまでの組織の活動内容からみると、「まちづくり」「高齢者の暮らし」「生きがいづくり」の分野で活動してきた組織、さらには当事者運動や人権運動に取り組む組織まで様々である。

さらに、株式会社および有限会社による評価機関のなかには、大阪府以外の都道府県からの新たに参入してきたものが幾つか存在する。総合コンサルティングを手がけてきたもの、会計コンサルティングを行ってきた会社、また官庁シンクタンクとして、主として行政計画の分野で実績があるものも認証を受けている。


◆「第三者評価の活用をめぐって」


介護事業を行う事業者において悩ましい問題は、老健局が義務化する方針を掲げている「情報公開の標準化」の取組との兼ね合いであろう。特養を経営する社会福祉法人関係者に少し話を伺うと、第三者評価の受審については、もう少し様子を見たいというのが本音のようである。事業者としてみれば、「受けなければならないもの」を優先せざるをえないと考えるのは当たり前のことである。

「第三者評価」は、「受けなければならないもの」ではない。最低基準をクリアしておけばよいという事業者もいるであろう。これに対して、サービスの質について利用者・家族・地域から信頼されたいという事業者が、差別化戦略として、「第三者評価」を受けたいと考えるのであろう。

さて、第三者評価を活用するねらいには、対外的には、信頼の確保があげられる。それに対して、対内的には、人材育成が期待できる。なかでも、受審までの準備で中心的な役割を担う職員には、職員の協力を取り付けるためには、かなりのリーダーシップが必要になる。また、受審までの取り組みにより多くの職員が参加し、点検や改善に関わることで、職員は現在福祉サービスに求められている「時代標準」に改めて気づくことになることも、期待される効果のひとつといえる。

こうしてみると、「第三者評価」の受審は、職員全員を対象に、あらためて、法人の経営理念を浸透させ、サービスの質を継続的に改善する取組を徹底する格好のチャンスとなろう。監査を受けるのと同じ意識で、事務長クラスが書類上の準備をして、「とりあえず受審してみた」というのでは、職員において評価結果について当事者意識が醸成されない。したがって、評価を受けた後における継続的なサービス改善の取組は、あまり期待できないと考える。

措置費の弾力化の恩恵に与りたくて、「第三者評価」を受けるというのも、受審の動機としてわからなくはないが、「第三者評価」本来の目的からみると、本末転倒しているように思われる。措置費の弾力化というのは、あくまで「おまけ」のご褒美にすぎない。これを受審の目的にすると、本来の継続的なサービス改善の取組のねらいがかすんでしまう。

サービスの質を継続的に改善する取組としてみた場合には、受審までのプロセス、および受審後のプロセスが大切である。評価を受けておけばよいというのでは、監査とあまり変わらない。

なお、職員の意識を変えるツールとしてみた場合には、「ほとんど準備なしに、日ごろの実態をみてもらい、専門的な第三者から評価を受ける」という手法は、ショック療法として有効かもしれない。「できているつもりであったが、cをつけられた。次は何とか名誉挽回したい」と考えてくれたらしめたものである。このように、受審後にポイントを置いて、評価結果に対し、職員総出によるサービスの底上げに取り掛かるというシナリオである。一年間継続的に体制を見直して、あらためて再受審するというのも、改善効果が期待できる手法といえる。

さて、こうした利用目的からみると、少なくとも「なぜ、bなのか」「なぜ、cなのか」という評価結果の根拠を、評価結果と共に記述してくれる評価機関を選びたいものである。それができる評価機関は、専門性が高い評価調査者を養成できている証明でもある。受審した施設の職員にしても、これをみて改善に取り組むことができるから、比較的受審後の改善意欲は上がるものと考えられる。

最後に、第三者評価を活用する事業者の立場からいうと、どの評価機関を選んだらよいのか、悩ましい問題である。これについては、福祉専門職による公正・中立的な評価を求めているのか、経営コンサルティング機能をも期待しているのか、あるいは「市民感覚を大切にしたい」とか「利用者の厳しい評価」に耐えうる組織づくりを目的としているのかによっても、違ってくる。その意味では、都道府県レベルの推進団体において、評価機関の少し詳しいプロフィール、評価の傾向などが、事前に公表されることが望ましいように思われる。もっとも、一番大切な調査評価者の質については、受審した施設などから、口コミ情報を集めるしかなさそうである。

検証 社会福祉基礎構造改革 福祉サービス第三者評価

社会福祉基礎構造改革の推進により、福祉の仕組みが利用者本位のサービスへと転換が図られた。なかでも、大きな改革のポイントのひとつは、情報開示、苦情解決とともに、サービスの質を向上させる仕組みを取り込んだことにある。これにより、利用者はもとより、国および地方自治体、さらにはサービス提供事業者の意識も、措置の時代と比較すると随分と変化しつつある。


サービス評価の取組は、既に各県レベルでスタートしている福祉サービス第三者評価事業をはじめとして、多様な広がりを見せている。今回の特集では、こうしたサービス評価を受審した社会福祉法人が、サービス評価の意義をどのように受け止めているのか、さらには活用していく上の工夫のポイントはどこにあるのかなど、検証してみる必要があると考えた。

サービス評価の仕組みは、スタートしたばかりの制度である。評価基準や実施体制などについても、様々な意見が社会福祉関係者のなかに存在する。これについて、いまだ批判的な意見や懐疑的な意見の方が多いかもしれない。

また、実際に制度の運用からしましても、幾つも懸念される問題が指摘できるかと思われる。たとえば、甘い評価をする評価機関に受審申請があつまらないか。さらには、評価者の主観により評価結果が違ってこないかなどの意見があろうかと思われる。

しかしながら、制度のこうした問題点を改善していきながらも、福祉の現場においては、サービス評価の意義をプラス思考で受け止めることが大切かと考える。社会福祉法人によって経営される施設にとっては、これまで培ってきた福祉の専門性を、第三者評価という仕組みをつうじて、情報発信する格好のチャンスであるかと思われる。さらには、利用者の選択に必要な情報を積極的に提供するわけであるから、社会福祉法人ならではの公益性を証明することにもつながると考える。

さらには、施設において職員が、業界スタンダードである評価基準に照らして自らのサービス内容や水準を検証し、サービス管理体制の改善に取り組む。サービス評価とは、福祉―ビスに対する経営者の理念を組織に浸透させ、職員によるサービス改善の意識を育て、これらによってサービスの品質を管理するシステムの構築につなげていくひとつのツールであると考えられる。評価結果よりも、こうしたプロセスのなかで、サービス管理の責任者を育て、彼・彼女を中心にして、職員相互のチームワーク力を鍛えることが大切ではないだろうか。しばしば、高額な費用を払ってまでサービス評価を受審する価値があるのかという声が聞かれるが、少なくとも経営者であれば、サービス管理に関わる必要な人材の育成に投資するものと考えることができるかと思われる。そのためにも、行政とともに、サービス評価を受ける事業者の側からも、調査評価者あるいは評価委員として協力するなど、信頼できるサービス評価機関を育てていく必要があろうかと思う。

福祉サービス第三者評価の課題

福祉サービスの質の向上にむけて―特別養護老人ホームの取り組みを中心に―

はじめに

社会福祉基礎構造改革により、措置から契約へと社会福祉の制度枠組みが転換した。介護サービスの提供が市町村から市場に委ねられることになった。もちろん、介護サービスの市場は、契約といっても自由な取引を認めるものではない。国や地方自治体の関与のもとで、介護サービスの市場が維持されている。政府により管理されているにせよ、市場メカニズムを取り入れることにより、利用者がよりよいサービスを選択し、これによりサービス事業者を競争させ、結果として質の高いサービスをより効率的に提供できると考えられた。平成十四年八月に内閣府国民生活局物価政策課より発表された報告書「介護サービス市場の一層の効率化のために」においても、民間企業を中心とする新規参入などにみられるように、競争によりサービスの質が向上したと認めていた 。


しかし、平成十九年に起きたコムスン事件を見る限りでは、競争がサービスの質を向上させることについては、疑わしいように思われる 。実際、競争によるシェア確保、利益重視が優先されると、組織として、優れた人材の確保・定着させること、さらにはサービスの質の向上につなげていくことはきわめて難しいことが明らかになったといえる。言換えると、コムスン事件が問うていることは、民間事業者による不正請求の事案のみならず、民間参入を促進するだけでは、必ずしも競争によりサービスの質が向上するとはいえないことである。コムスン事件を契機に失墜した信頼を回復するためにも、法令遵守のための業務管理体制の確立はもとより、福祉サービス第三者評価制度など、政府の積極的な関与により、サービスの質を向上させる仕組みが重要であることを示唆するものといえる。本稿では、こうした問題意識から、介護サービスの向上にむけた福祉サービス第三者評価の現状と課題について考えてみたい。


1 サービスの質の向上の取り組み

 
措置制度の時代では、最低基準を定め監査という手法で行政システムのなかで介護サービスの質をコントロールしてきた。施設の設置者に対し、厚生大臣が定める特別養護老人ホームの運営基準を遵守することを義務づけ、都道府県知事に報告の徴収および立ち入り調査の権限を与えた。改善命令に従わなければ、事業の停止および認可の取り消しができた。


介護保険法のもとでは、従来からの行政による監査・監督の手法に加え、経営情報の開示、第三者によるサービス評価、苦情解決、介護相談員派遣事業といった新たな制度が組み込まれた。2005年法改正から、介護サービス情報の公開も義務付けられている。また、介護報酬の見直しによって、事業者に対しサービスの充実に取り組むようにインセンティブを与え、誘導する手法もとられてきた。


さらには、ケアマネジメントの手法が義務付けられ、身体拘束も禁止された。介護事故回避のためのリスクマネジメントについても指針も公表された。2009年からは、法令遵守に向けた業務管理体制の確立も義務付けられている。


こうした制度の見直しは行なわれたが、はたして事業者により提供されるサービスの質はどこまで向上したのであろうか。措置の時代と比較して、どこまでサービスの質が改善されたかについては、必ずしも実証的かつ科学的に証明できる資料は持ち合わせていない 。しかし、サービス評価や苦情解決、リスクマネジメントなどの研究などから施設の実態に関わる中で、特別養護老人ホームにおいては、介護サービスの質の向上の取り組みについて、二極分化が進んでいると感じている 。


将来競争優位に立つため、サービス・マネジメントの手法をもちいて、介護サービスの質の向上に積極的に取り組んでいる施設も存在する。しかし、様々な仕組みが入ってきても、あいかわらず措置の時代と同じような方法・水準でサービスを提供している施設もある。こうした施設でも、最低基準を遵守しているので、指定の取り消しや認可の取り消しには至らない。市場原理がサービスの質の向上のために機能しない事例が少なからず存在している。


社会福祉基礎構造改革においては、施設自身による継続的な質の確保の取り組みに期待したが、必ずしも十分な効果をあげることに成功していない。これを施設経営者のモラルの問題を考えることもできようが、制度構造自体にも幾つかの要因が存在する 。


ひとつは、会計基準の変更があげられる。新しい会計基準では、介護報酬の使途が自由化され、経営努力により黒字となれば、経営成果すなわち事業上の利益として認められるようになった。措置の時代には、収支均衡が原則であり、繰越金に対しても限度額が設定されていたことからすると、経営者の裁量が拡大した。効率的な運営により、得られた利益をサービスの質の向上の取り組みに充当したならば、施設自身による継続的に質の確保の取り組みが可能となるはずであった。しかし、施設経営は、人件費を中心に経費削減には成功したものの、サービスの質の向上を棚上げしたように思われる。


介護保険経営実態調査をもとに、特養などの施設経営が黒字となっていることを踏まえて、介護報酬は、改訂のたびに引き下げられてきた。2009年の改訂により、職員の処遇改善の必要から介護報酬が引き上げられたものの、増えた収入の一部がサービスの質の向上に当てられるかは、経営者の裁量に委ねられている。


もうひとつの要因は、市場機能に委ねるだけでは、サービスの質を引き上げるインセンティブが働かないことがあげられる。特別養護老人ホームの整備数は限られており、介護の市場は、いまだ需要過剰の状態にある。利用料が安いこともあって、いまだ入居を希望する者は数多い。また、施設のサービスの質に不満があっても、退去しようと者はごくまれである。経営者からみると、サービスの質を向上しなくても、施設の存続が危うくなる状況にはない。逆に、利益を削ってサービスの質を向上しても、地域で一番信頼できるとの評価を得られようが、定員がある限り、収入の飛躍的なアップにはつながらない。


認知症対応型共同介護や有料老人ホームなどの特定施設入居者生活介護、小規模多機能居宅介護が増えているが、利用料の違いもあって、特別養護老人ホームの経営に脅威となる状況ではない。特別養護老人ホームに利用者・家族の需要が集中しなくなり、サービスの質の悪い施設においては、定員割れもありうることが明確になれば、第三者評価の仕組みや苦情解決はもちろん、サービス全体の継続的な改善・見直しなど、サービスの質の向上に取り組む施設が増えることであろうが、当面こうした状況は期待できない。


2 福祉サービス第三者評価について

福祉サービスの質の向上のために第三者評価の仕組みが導入されているが、必ずしも十分に普及・定着しているとはいいがたい。ここでも、積極的に受審に動いた施設と、様子見を決め込んでいる施設とに二分される。しかしながら、後者の全ての施設が、サービスの質の向上について、関心がないわけではない。サービスの質の向上の必要性を認めながらも受審を躊躇っている施設にターゲットに受審拡大を図るためには、制度上何が課題であるのか検討したい。


① 福祉サービス第三者評価事業の経緯
 
福祉サービスの質の向上の取り組みは、利用者本位の福祉サービス利用制度への転換を行うために、重要な改革のテーマのひとつにあげられた 。中央社会福祉審議会が、1998年に、「社会福祉基礎構造改革について(中間まとめ)」を明らかにしたが、「サービス内容の評価は、サービス提供者が自らの問題点を具体的に把握し、改善を図るための重要な手段となる。こうした評価は、利用者の意見も採り入れた形で客観的に行われることが重要であり、このため、専門的な第三者機関において行われることを推進する必要がある」とされた。この中間まとめを受け、福祉サービスの質に関する検討会が、「福祉サービスの質の向上に関する基本方針」を公表し、福祉サービス第三者評価の基本的な枠組みを検討した。検討内容は、「福祉サービスにおける第三者評価事業に関する報告書」としてとりまとめられ、国は、社会福祉法第78条にもとづき、福祉サービスの質の公正かつ適切な評価の実施に資するための措置として、「福祉サービスの第三者評価事業の実施要綱について(指針)」を通知として公表した。


 「福祉サービスにおける第三者評価事業に関する報告書」では、福祉サービスにおける第三者評価事業を導入するに当たって、基本となるべき評価基準として、福祉サービス全般(全ての入所・通所施設及び在宅サービス)を対象とした基準を策定したが、個別のサービス分野ごとの基準については、厚生労働省の各部局において、本基準並びに各サービスの特性を踏まえて策定されることを期待するものした。そこで、保育所・児童の分野、障害者の分野、介護の分野、担当部局ごとに、福祉サービス第三者事業を検討、実施し始めた。たとえば、介護サービスについては、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)は都道府県が定める基準にもとづいてサービスの自己評価を行い、外部評価を受けることが義務付けられた。また、介護サービス事業者に対し介護サービスの情報公開を義務付けることを検討していた。


さらには、地方自治体やNPOも、個別に自ら基準や仕組みを構想し、第三者評価の事業を展開し始めた。東京都と大阪府の実施体制や評価方法が大きく異なるなど、地方自治体ごとに、評価基準および評価の仕組みには、かなりの違いがみられた。また、北九州市なども、条例にもとづき自治体が評価機関を設置し、自ら定めた評価基準にもとづいて第三者評価を始めた。こうした実施状況を受けて、あらためて全国的に共通した福祉サービス第三者評価事業の基準や評価の仕組が必要とされた 。2003年、全国社会福祉協議会は、厚生労働省から補助を受けて、「第三者評価基準及び評価機関の認証のあり方に関する研究会」を組織し、評価機関の認証のあり方、評価基準の見直しの検討を行い、「福祉サービス第三者評価事業に関する指針について」をとりまとめた。厚生労働省は、第三者事業の普及・定着のために2004年「福祉サービス第三者評価事業に関する指針」を公表した。この指針にもとづいて、都道府県ごとに推進組織を設置し、評価機関を認証、所定の評価基準にもとづき評価機関が行った評価結果を公表する現在の仕組みがつくられている。


2009年には、福祉サービス評価事業ガイドラインを一部改正した。まず、都道府県推進組織ガイドラインについて、①都道府県の関与を努力義務化する②第三者評価の客観性を担保するため「第三者評価機関は、自ら直接経営する事業所」についても評価できない旨明記③評価決定委員会の設置を規程④利用者調査を努力義務として定めた。評価機関認証ガイドラインについては、①評価調査者養成研修に修了要件を追加②第三者評価機関認証の有効期間の新設③第三者評価機関からの認証辞退の取り扱いについて定めた。福祉サービス第三者評価基準ガイドラインおよび福祉サービス評価結果の公表ガイドラインについても、若干の見直しを行なった。


② 福祉サービス第三者評価事業の仕組み

福祉サービス第三者評価事業の目的は、事業所によるサービスの質の向上に向けた取り組みを支援することにある。社会福祉事業の経営者には、自ら提供するサービスの質の評価を行うことその他の措置を講ずることにより、利用者の立場にたって、良質かつ適切なサービス提供の義務がある。第三者評価を受けることにより、事業運営やサービスの内容に具体的な問題や課題を発見・改善し、サービスの質の向上につなげることができる。また、評価の結果は、事業者の同意により都道府県の推進組織から公表される。こうした情報は、地域の利用者や家族などにとって、サービス選択に役立つ情報となる。


福祉サービス第三者評価事業が、事業者はもとより、地域住民からも信頼され普及・定着する体制づくりのために、都道府県ごとに推進組織が設置されている。都道府県が自ら推進組織となる場合が比較的多いが、都道府県社会福祉協議会、公益法人、任意団体も推進組織となっている。


事業者は、推進組織から認証を受けた評価機関のなかから受審する評価機関を選び、評価の申し込みを行い、契約にもとづき評価を受ける。福祉サービス第三者評価の受審は、あくまで任意であり、義務付けられているわけではない。なお、受審は有料であり、事業者が費用を負担する。受審を奨励するために、受審する事業者に対し費用の一部を補助する地方自治体もある。


評価基準は、いずれの施設にも共通する①福祉サービスの基本方針と組織②組織の運営管理③適切な福祉サービスの実施に関する55項目からなる。児童福祉施設、障害福祉施設においては、サービス内容に関する追加基準が設けられている。利用者に対するアンケートも実施される。


受審する事業所は、事前に自己評価を行い、その結果を必要書類とともに評価機関に送付する。評価調査者は、こうした資料を事前に把握し、評価項目ごとにポイントを整理するなど、事前に分析しておく必要がある。評価調査者2名以上で、訪問調査を行う。事業所においては、評価調査者は、評価項目にしたがいながら、事業者に対する聞き取り、書類の確認、事業所内の見学、必要に応じて利用者からの意見聴取を行う 。


こうした評価結果をとりまとめ、事業所から公表の同意をとりつけ、評価結果の公表となる。公表されるべき内容は、福祉サービス第三者評価結果の公表ガイドラインによると、①第三者評価機関名②事業者情報③総評④事業者コメント⑤評価基準ごとの評価結果となっている。なお、都道府県によって、公表の様式にも若干の違いがみられる。


評価機関は、法人格をもっていることが必要である。したがって、法人の形態も多様であり、社会福祉協議会、公益法人、NPO、株式会社などが、こうした認証を受けて、評価機関となることが可能である。たとえば、東京都は、平成20年度4月現在、122の評価機関が認証を受けている。団体の性格も、株式会社やNPOなど様々である。認証の要件には、評価調査者や諸規程の整備、苦情解決の体制、第三者評価基準の遵守などがあり、福祉サービス第三者評価機関認証ガイドラインに定められている。全国規模の組織であっても、都道府県ごとに認証を受ける必要がある。



③ 介護サービスの基準と質

 
介護サービスの質を評価する視点としては、(1)構造(2)プロセス(3)結果という三つの視点から考えることができる。これらは、いずれも介護サービスの質の向上と関わっている。さらには、報酬単価や人材の質もサービスの質の向上のための主要なファクターであることはいうまでもない。


第一の構造については、サービスの質に関わる基準として、監査により質をコントロールする仕組みがあげられる。ここでの基準としては、すべての施設や事業に対し遵守を義務付ける運営基準、指定基準があげられる。その内容は、設備や職員配置などについての基準と契約内容の説明同意、ケアプランの作成、苦情解決制度などのプロセスに関する基準が含まれている。サービスの質の確保について、事業者に義務付ける部分が最低基準として法定され、監査によりサービスの水準を担保している。監査によって、基準違反が、確認されたならば、改善命令や指定の取消などの行政処分の対象となる。しかし、鑑査のシステムでは、事業者が法律上の最低基準を守っている限り、サービスの内容が劣っているとしても、サービスの内容の見直しを求めることはできない。実際には、最低基準や指定基準を守っている施設においても、サービスの質に優劣が存在する。


最低基準においては、施設設備・人員配置などの外形的な基準が大部分であり、サービス内容についての基準は十分に定められていなかった。同一の最低基準や報酬単価のもとでも、事業者の経営努力により、サービスの質が向上する余地がある。サービス評価の仕組みは、サービスの内容についての評価基準を定めて、事業者をよりよいサービス水準に誘導することがねらいである。つまり、事業者による任意の経営努力に委ね、サービスの水準の向上を求めるものといえる。したがって、評価結果は、サービスの質の向上について、経営者の任意の経営努力を評価するものである。


第二のプロセスに対する評価としては、福祉サービス第三者評価の仕組みがある。第三者評価の基準は、サービスの質を評価するものであるが、監査との棲み分けを意識し、サービス提供のプロセスを重視したものとなっている。なかでも、各施設におけるサービスのプロセスを標準化することが評価対象に入っているのが特徴である 。さらには、サービス提供の理念や管理者のリーダーシップ、人事管理や人材育成についても、評価基準が設けられている。質の高いサービスを提供するためには、事業者の運営体制はかくあるべきという考えから、これら基準が加えられている。このため、共通部分は、サービス・マネジメント体制の確立に重点が置かれている基準構成となっている。こうした内容は、法律により強制されて取り組むべき事柄ではない。


第三にサービスの結果を評価する方法もある。サービスの効果・結果や利用者の満足度をもって評価しようとするものである。福祉サービス第三者評価の基準づくりにおいて、評価対象に利用者満足を反映できないかという議論があった。しかしながら、福祉サービスや介護サービスの結果を、何について、どのような基準で図るかという問題がある。医療であれば、平均在院日数や死亡率など提供されて生ずる治療効果に着目し、評価することができる。しかし、福祉や介護サービスについては、いまだこうした提供されて生ずるサービス効果について統一的な評価基準は開発できていない 。


考えられるのは、利用者満足をサービス提供の結果とみて、評価することである。しかし、利用者の満足度を調査できても、この結果をサービスの質を公正に評価する尺度としては使うことには、慎重に考えざるをえない。第三者評価は「公正・中立」、「専門的」、「客観的」に行われるものであるという基本的な考え方と齟齬をきたしてしまうからである。福祉サービス第三者評価事業においても、利用者の認識を把握するためアンケートや聞き取りを行なう。これは、ヒアリングを行うこと等により、利用者の認識を把握し、第三者評価基準に基づく全体の評価結果をとりまとめる際の参考とすることとしたものである。利用者満足を評価に加えようとするものではない。また、利用者の苦情を拾い集めようとするものではない。


苦情については、苦情解決の仕組みが別途設けられている。苦情解決の仕組みには、サービスの質に関する基準は定められていないが、利用者側が契約およびサービスの質に対し不満をもった場合に苦情として申立てるわけであるから、サービスの質に対する利用者側の主観的ではあるが何らかの価値基準が存在すると考えられる。こうした価値基準に照らして、サービスの質について利用者側から「不満」「満足」といった評価がされる。こうした利用者側の不満の一部が苦情申立という行動にむすびつく。具体的な実際、苦情として申立てられる内容をみると、構造に関するもの、プロセスに関するもの、結果に関するものとすべての領域に及んでいる。個人の主観による基準であるから、最低基準はもちろん、業界標準を上回るものも少なくない。しかし、施設からみると、こうした対応が難しい苦情についても、何故できないかなど誠実に説明することが求められるようになっている。苦情解決の仕組みも、事業者に対しサービスの質を向上させる取り組みを促す機能をもっている。


こうした監査、第三者評価、苦情解決という三つの制度が、それぞれ性格の基準にもとづいて、サービスの質をチェックし、重層的かつ複合的に機能することで、サービスの質を向上させる仕組みとして出来上がっているのが特徴といえる。サービスのミニマム水準は公的規制に委ね、より望ましい水準をめざしたサービス改善の取り組みは、施設の側の経営努力と利用者評価に任せるという構造である。ただし、利用者が評価した結果を選択行動とむすびつけられない現状では、サービス評価も苦情解決に対する取り組みも、事業の基本的な性格から施設側の経営努力に期待するしかないのであるが、これがサービスの質についての事業者の取り組みにおいて、質の向上に熱心な施設とそうでない施設と、二極分化を招いている。


④ 第三者評価受審の意義


現在、全国すべての都道府県において、第三者評価事業の都道府県推進組織が設置されているが、都道府県により組織体制を整備し、第三者評価事業を開始した時期には随分とズレがある。早いところでは、東京都は平成14年から評価事業を開始しているが、多くの自治体は、厚生労働省による「福祉サービス第三者評価事業に関する指針」への対応の必要から、17年に第三者評価事業を始めている。その後も、18年、19年と都道府県ごとに推進組織の立ち上げが続いた。


都道府県において推進組織が整備されないと、評価機関の認証ができない。その都道府県においては、特別養護老人ホームなどが、第三者評価を受けようと考えても、受審の機会が与えられない。そのため当初は、受審件数が少なかった。しかし、こうした第三者評価実施体制の立ち上げが進むにつれて、第三者評価受審件数も、17年が1,678施設、18年が1,947施設、19年が2,835施設、20年が2,757施設と増えてきた。四ヵ年で、9,217施設に及ぶ。


特別養護老人ホームは、福祉施設全体では受審率は高い方であるが、四年間で●●施設、施設数全体の約●●%にすぎない。第三者評価を受審した施設においては、総じて第三者評価を受けた意義を認めている。すなわち、自ら提供するサービスの質を評価し、組織上の課題を把握した上で、組織外の専門の評価機関による客観的な評価を受けることにより、サービスの質の向上について多くの気づきを得られていると好評である。受審のメリットとしては、①現状の把握、どこに改善するべき課題があるかが把握できる②評価を受けるための事前の準備が、職員の意識啓発、改善に向けたアクションのきっかけづくりとなる③評価結果から改善に取り組むべき方向が明確になる④利用者・家族、地域からの信頼づくりにつながる、などが考えられる。サービスの質の向上に積極的に取り組む施設を増やすためにも、第三者評価事業のさらなる普及・定着が必要である。


大阪府の推進組織では、2007年に受審した事業者に対しアンケート調査を行なっている。これによれば、受審した特別養護老人ホームの大部分が、自己評価、訪問調査から「気づきがえられた」と回答し(11施設が「はい」・「どちらかといえばはい」と回答/全体12施設)、評価によって「サービスの改善や向上のための具体的な方策がみえてきた」(9施設が「はい」・「どちらかといえばはい」と回答/全体12施設)第三者評価を受審したことが「事業者のサービスや経営、質の向上に役立った」(12施設が「はい」・「どちらかといえばはい」と回答/全体12施設)と答えている。これからみても、少なくとも受審した施設からは、サービスの質の向上について、第三者評価を受審する意義があるものと認められていることがわかる。

⑤ 第三者評価の推進にむけて

こうしたメリットを実感できない理由としては、幾つか検討するべき課題が存在するように思われる。まず、特別養護老人ホームについて、第三者評価が普及しない一つの要因として、介護サービス情報公表システムの存在があげられる。毎年、全ての介護サービスの事業者に対し、情報の公表を義務付けている。事業者からすれば、介護サービスの情報公開に応じ、さらに第三者評価の受審までとても手が回らないというのが本音であろう。


介護サービス情報公表制度は、介護サービスの事業者が行っているサービスの内容や運営状況など特定の事項について訪問調査を行い、事実の確認上、明らかになった結果を情報開示するものである。事業者に対し、利用者のサービス選択に必要な情報の提供を義務付けることがねらいである。確認の対象となる事項は一部重なるものの、福祉サービス第三者評価のように、福祉サービスの質の向上のため望ましい質の基準を定め、専門の第三者機関が目標達成度合いをA、B、Cと評価し、事業者に対しより望ましい水準に向って、サービスの質の向上を促す仕組みとは、事業の目的や性格が違っている。


介護サービスの情報を公表してもなお、特別養護老人ホームにおいては、自らの組織の提供するサービスな事業内容についての課題を把握し、サービス質の向上の努力が求められる。また、両システムは並存可能である。たとえば、事業者の負担を軽減するのであれば、制度の運用において、同じ評価機関が同じ日に一括して二つの訪問調査を行うなどの工夫が可能であろう。事業者側の心理的、経済的、また業務上の負担は軽減される。


第二に、第三者評価の基準や評価方法に対して、不満をもつ事業者も少なくない 。特別養護老人ホームに対する第三者評価の基準は、前述のように①福祉サービスの基本方針と組織②組織の運営管理③適切な福祉サービスの実施について評価する。これは、サービスの質を向上させる組織体制が確立されているか、適切なサービス提供のプロセスが確立しているかを評価しようとするものである。訪問評価者は、主として、こうした取り組みを裏付ける文書や記録があるか、マニュアルが整備されているかについて確認し、評価するという手法をとる。


これに対して、受審に消極的な施設の側からは、マニュアルや記録の確認ではなく、もっと具体的なサービスの内容や実践をみてほしいという意見も存在する。評価基準の検討においては、当初、全ての種別の施設や事業に共通する基準が必要という考えから、基準の内容を①福祉サービスの基本方針と組織②組織の運営管理③適切な福祉サービスの実施に絞り込んだ。特別養護老人ホームなど特定の福祉施設において提供されている具体的なサービス内容についての基準項目は、外された。その後、障害者の福祉施設や保育所などは、共通基準に加えて具体的なサービス内容についての基準を追加し、サービス内容についても評価している。これに対して、特別養護老人ホームの具体的なサービス内容についての評価基準はつくられていない。


共通基準だけでも、施設のサービスの質を向上させる取り組みを評価できるという意見もある。しかし、保育所などの第三者評価の実践を研究してみると、具体的なサービス内容に関する追加基準があるために、現場の保育士が自らの実践を振り返るきっかけとなっていたことがわかった。私自身、当初は共通項目だけで十分と考えていたが、第三者評価の受審をきっかけにして施設において現場の職員を巻き込みサービスの質の向上の取り組みをダイナミックに展開することを期待するならば、追加基準の存在意義は大きいと考えている。したがって、特別養護老人ホームについても、認知症ケアの実践、ホスピスケア、医療・看護との連携など、現場の職員が関わる具体的サービス内容について、評価の対象に加えることが望ましい。そうすることで、評価方法においても、利用者の様子や施設職員によるサービス提供の場面の観察や聞き取りのウェートが増すことであろう。


最後に、事業者を第三者評価の受審へと促すようなインセンティブが制度上十分に組み込まれていない。現行制度では、第三者評価を受審し、結果公表に応じた場合には、措置費の弾力運用が認められている。しかし、特別養護老人ホームについては、契約施設であり、会計間の資金移動は認められているので、こうした措置費の弾力運用の取り扱いが、受審のインセンティブとならない。特別養護老人ホームに限らず、すべての施設に対し福祉サービスの質の向上をもとめ、第三者評価事業のさらなる普及・定着をめざすならば、あらためてインセンティブについての考え方を検討し直す必要がある。本来は、サービスの質を向上させ、地域の利用者から信頼され選択されることが、何よりも事業者にとってサービス評価を受審するメリットでありインセンティブとなると考えていた。しかし、こうした立場から、第三者評価を受審する施設の割合は、業界のトップリーダー、三割くらいであるのかもしれない。施設全体の半数を超えるほどまで、受審件数をつみ上げ、第三者評価をさらに普及させるためには、これまでとは違う奨励措置の検討が必要ではなかろうか。


たとえば、東京都は、受審実績が著しく高い。全国の受審件数の約三分の二を東京都の施設によって占められている 。こうした受審実績があげられている理由のひとつに、積極的な受審の奨励措置がとられていることが、あげられる。すなわち、都独自の「東京都特別養護老人ホーム経営支援補助金」交付の要件のひとつに、第三者評価の受審を求めている。これは、少なくとも三年に一回第三者評価を受審することを条件としており、受審しない場合は補助金を減額するものとしている。特別養護老人ホーム以外の福祉施設においても「東京都民間社会福祉施設サービス推進費補助」の交付要件のひとつに、第三者評価の受審を求めている。受審しなければ、同様に減額される。こうした補助金の交付にあたって、施設側のサービスの質の向上の努力・実績を考慮し、交付額に差を設けようとするのである。また、東京都は、特定事業所集中減算をしない条件のひとつに、第三者評価の受審を定めている 。


また、医療機能評価機構が行う病院機能評価では、受審する病院の数が伸びているが、病院機能評価を受審していることが、緩和ケア病棟入院料の施設基準、緩和ケア診療加算の施設基準に反映され加算対象となっているなど、診療報酬上のインセンティブが与えていることも要因のひとつである。福祉サービス第三者評価事業も、受審することが目的とならないように配慮しながらも、第三者評価を受審しサービスの質の向上に取り組む活動や成果に対する奨励措置が考えられてよい。受審のきっかけはなんであれ、受審準備のプロセスが、サービスの質の向上によい効果をもっていることに気づくであろう。


3 社会福祉法第七十八条第一項、経営者の役割について

社会福祉法第七十八条は、社会福祉事業の経営者に対し「福祉サービスの質の向上のための措置」をとることを努力義務として定めている。経営者は、社会福祉法第五条「福祉サービスの提供の原則」にもあるように、利用者の意向を十分に尊重し、サービスを提供することが求められている。さらには、社会福祉法第七十八条は、「サービスの質の評価を行うこと」により、「常に福祉サービスを受ける立場にたって良質かつ適切な福祉サービスを提供するように努める」義務を定めている。経営者は、どのようにして、こうした義務を果たしていくべきなのであろうか。


 サービス評価の評価基準にもあるように、サービスの質の向上のためには、経営者が、自らの基本方針を現場組織の末端にいたるまでいかに浸透させるが大切である。現実の利用関係では、援助する側の都合が、個々の利用者の立場に優越する。措置から契約へと社会福祉の基礎構造が転換しても、現実の力関係は、援助関係において、決して対等などではない。現実の援助関係を対等なものにし、質の高いサービスを提供するには、施設における職員の意識のみならず業務管理のあり方自体を変革する必要がある。サービスの質を向上させるためには、経営者のリーダーシップは欠かせない。


特別養護老人ホームなど社会福祉施設の経営者は、「福祉サービスの提供の原則」や「福祉サービスの質の向上のための措置」をどのように受け止めたのであろうか。社会福祉法人のなかには、措置から契約への構造転換など外部環境の変化に自らの経営組織を対応させるため、あらためて経営理念を明確にし、中長期の事業計画や事業戦略を検討するなどし、組織が向かうべき方向を修正する法人もあらわれた。実際、法人の経営理念として、「利用者本位の質の高いサービスの提供」を掲げる法人も少なくない。


 しかし、理念を掲げているからといって、利用者本位のサービスの提供を実践できているとは限らない。形式的に掲げているにすぎないようにみえる法人や施設も多数存在するように思われる。介護事業のように、国民のニーズが拡大し、市場が安定的に成長している状況においては、それでも経営は成り立つのであろう。しかし、利用者の視点から自らのサービス提供はどうあるべきかについて検討している施設も存在する。ここで大切なのは、こうした経営理念を組織においてどのように実践するかである。経営者自らの実践なくしては、組織構成員の意識改革はありえない。


利用者本位のサービスの提供をめざし、質の向上に努めるという経営理念をどのようにして組織に浸透させることができるか。ある経営者からの聞取りからは、次のように実践していると説明を受けた。まず、第一に、経営者自ら職員に対し、なぜ利用者本位のサービスの提供が大切なのかを繰り返し、説き続けることが大切である。たとえば、ある施設長は、職員に対して、エンドユーザーは職員自身であるとして、「自分の親をうち施設に入れたいと思うか」「入居していただいて最後に親孝行ができたと思えるか」と問い続けている。利用者本位の考え方が、法人経営のベースと考えるからである。

第二に、職員にも「そうした施設になるにはどうしたらよいか、利用者・家族の視点から意見を述べてほしい」と募ることが大切である。職員のなかにも、日ごろから心の中で「こうしたら、もっと利用者から喜ばれるのに」と思っている人は多い。こうした意見を業務の見直しに反映させる仕組みをつくる取り組みが必要である。そして、第三に、こうした利用者本位のサービを提供するための業務改善をひとつひとつ実践し、積み上げていくことで、利用者からも感謝される、それによって職員の仕事に対するモチベーションが高まる。こうしたことが、経営者の安心・満足にもつながるという良い経営の循環がうまれることをねらっているという。


 このことからも明らかなように、職員による利用者への関わり自体が、法人が提供する福祉サービスである。現実の援助する側と援助される側との関係において「経営理念」が伝わることが大切である。言い換えると、実際に職員により提供されている福祉サービスこそが、経営理念の具体的表現とみるべきである。経営者や管理者は、こうした視点から現場にたって、自らかがける経営理念が利用者・家族に「価値あるもの」として伝わっているか、日々確認する努力が必要であろう。利用者家族から信頼され、事業を継続的、持続的そして発展的に経営するためにも、こうした経営者の努力が大切といえる。また、こうした経営者の取り組みこそが、社会福祉法78条が求める経営者のあり方であると考える。福祉サービス第三者評価の受審についても、経営者が自らの組織が利用者本位というベクトルからずれていないか客観的に確認できることに意義があると考える。



保育リスクマネジメントー事故報告書について

保育の友に、連載している「保育リスクマネジメント」の原稿です。

保育園の事故報告書について、考えてみました。


◆ 事故を報告する、その①

なぜ事故報告書を作成するのですか

保育園において事故が起これば、事故に関わった保育士は、事故報告書を作成し、園長に提出しなければなりません。保育園におけるスクマネジメント活動が広がる以前から、どこの保育園においても、事故報告書の作成は行われていました。事故報告書は、なぜ作成されなければならないのでしょうか。提出を求められているからと考えず、事故報告書作成の意義について、考え直してみたいと思います。


園長は、起きた事故の経緯や原因については、事故報告書が提出される以前から把握しています。したがって、事故報告書により、発生した事故の実態を把握しようとするものではありません。むしろ、事故を起こした保育士本人に対し、事故報告書を作成させることにより、事故が起きた経緯を振り返り、なぜ事故が起きたのかを反省させることがねらいであったと思われます。つまり、事故報告書は、事故を起こした保育士にとって、反省文や始末書のような性格をもっていたのでしょう。


確かに、事故報告書作成の意義として、保育士に反省を求め、ミスを繰り返さない、再発防止を約束させることも大切です。しかしながら、リスクマネジメントの立場からみると、始末書を書かせるよりは、事故の記録を残すことにより、事故を振り返り、起きた事故の教訓とすることが大切です。事故の経験を記録に残し、事故の再発防止に活かすことが大切です。


つまり、事故報告書は、ヒヤリハット報告と同様に、事故データとして、事故防止の組織的な活動に役立てるものとして、作成されるべきものです。事故を起こした保育士が反省しても、他の保育士ともこうした経験が共有されないと、類似の事故が繰り返されます。事故を起こした保育士が自らの保育と向き合い、どこに原因があったかを反省するとともに、組織としても、事故の経験を教訓として、保育士のチームワークにより再発防止に取り組むために、事故報告書の活用が必要とされているのです。

子どもの小さなケガは、事故ではありませんか

皆さんの保育園では、どのような場合に事故報告書を提出することになっていますか。事故報告書の様式により報告するように求められる事故は、子どもがけがをして、医療機関の診察・治療を必要としたけがを伴うものに限定している保育園が多いようです。

リスクマネジメントでも、ケガにより医療費の支払いや賠償の対象となる損害の発生を「事故」として取り扱い、職員に対し報告を義務づけると考えられてきました。こうした事故の発生は、必ずしも多くありません。保育園の入所定員にもよるのでしょうが、私の主催する保育リクマネジメント研究会に参加する保育園でも、年間多くて10件前後の事故報告がされています。


あるとき、保育園に勤務する看護師から「子どもの園内でケガをして処置した件数がかなりありますが、こうした小さなケガは保育中の事故とは考えないのでよいのでしょうか」と尋ねられたことがありました。当初は、損害の発生に着目し、事故かヒヤリハットした経験かを区別してきたのですが、こうした問いかけから、最近では、小さなケガも事故として報告を求めることが必要と考えるようになりました。


もちろん、保育園における処置簿に記録されている内容をみると、ケガをしていないのに「ここ痛いからバンドエイドはって」とやってくる子どもも処置されています。こうした事故性の認められないものは別にして、保育士がお迎えの時に保護者に説明しなければならない保育中のケガは、年間でかなりの数にのぼります。こうしたケガが、事故報告書、ヒヤリハット報告書のいずれでも、報告されていないことが問題と思います。


実際に、保育園において発生した小さなけがなども、事故として報告を求める保育園も存在します。たとえば、看護師や保育士が子どものけがの処置をした場合には、処置簿に記録することにとどまらず、事故報告書を提出するものとルール化しています。事故報告書の提出まで求めていませんがが、「医療機関を受診して異常なしと診断された事例」、「保育園において手当てした事例」は、事故報告書に準じて、必ずヒヤリハット報告書の提出をするように義務付けているところもあります。


さらには、子どもがけがをしなくとも、誤飲・転落・転倒・挟み込みなど、起きた事故はすべて報告するように徹底している保育園あります。園長自ら、自らの保育園において発生している事故の実態、事故データは可能な限り把握しておきたいと考えているからです。


ヒヤリハット報告があまり提出されていない保育園では、報告されていない事故やケガの存在が気になります。組織として把握されるべき事故情報が漏れているからです。リスクマネジメントの立場からは、小さなケガで済んでいるうちに、事故発生の経緯や事故原因を検証し、必要な対策を検討・実施することが大切です。小さなケガに関する事故情報が保育士により共有されずにいますと、重大事故につながる事故リスクが存在していることに気がつかない事態を招きかねません。


◆ 事故を報告する、その②


事故に関する情報を適切に把握するためには、事故報告書の様式にも工夫が必要です。必要な事柄が洩れなく記載されるように、記入するべき項目を定めているでしょうか。事故報告書の様式について、取り上げてみたいと思います。

必要な事故の情報は洩れなく記述されていますか


事故報告書の様式および記載内容は、保育園において様々です。事故報告書が、ヒヤリハット報告と同じ様式を使っている例もあります。また、公立保育所であれば、自治体が決めた統一した様式を使っていると思います。しかし、事故報告書の様式は、自治体によって、様々です。事故報告書の様式は、必ずしも同一の様式に統一する必要はないと思いますが、書き手の保育士によって、大切な事故情報が漏れることのないように心掛けてください。


事故報告書は、後日検証し必要な対応を検討するために、役に立つものでなければなりません。事故報告書の記載項目欄でも、こうしたことが漏れており、後から報告書を作成した保育士に尋ねる必要がないように、①発生日時②発生場所③児童名④発生状況⑤受傷部位・受傷内容⑥園での処置、病院での治療⑦事故原因⑧再発防止の工夫などは、重要な事故データです。おおくの事故報告書では、それぞれ所定の記載項目欄を設け、こうした事柄が必ず記述されるように工夫してあります。


事故発生後の対応状況の把握が大切です。保育園によっては、事故発生後の対応を細かに記述させるように、様式を工夫しているところがあります。園においてどのような応急処置がされたのか、応急処置の内容が記述されるものとなっていました。


さらには、病院など医療機関を受診したのであれば、そこでの対応についても、もれなく記録に残すことが望まれます。たとえば、①医療機関名②受診した時間③付き添った保育士名④治療の内容⑤医師の指示などです。また、通院が必要となり、治療が継続する場合がありますから、①日時②付き添った保育士名③処置の内容④医師の指示⑤完治した日などの欄を設け、記録として残しておくとよいでしょう。


また、保護者に対する対応についても、①連絡した時間②連絡した保育士③連絡先④連絡を受けた保護者名⑤連絡した内容⑥保護者の様子および反応⑦保護者への引き渡し時間⑧引き渡した保育士⑨引き取った保護者名⑩保護者に対する説明内容⑪保護者の様子および反応答なども、事故報告書において必ず記述させるとよいと思います。保育士による保護者対応が適切でないと、事故が裁判などのトラブルとなってしまいます。こうした内容が洩れないように、事故報告書の様式を見直してください。


事故発生の状況の項目では、事故発生の経緯を記述することになります。事故発生の状況の項目欄は、書き込み少しスペースを広く設定しておくとよいと思います。事故発生の状況を整理し文章によって説明することは、保育士にとって、事故を客観的に振り返ってみる機会となるはずです。さらには、事故の発生状況を現場の図・イラストで書き表すスペースを設けている保育園もあります。その場にいた保育士の位置や子どもの動きなども、図にして表した方が状況の把握が的確になります。


最後に、公立保育所の事故報告書においては、園長や所長のコメントを記入する欄を設けている例があります。事故に関わった保育士の報告に対し、管理者である園長や所長が意見を付けることは、再発防止の立場からも、意義があると思います。管理者の立場から、どのように事故を受け止めているのか、あるいはどのように受け止めてほしいのかなど、組織としての課題を明確にすることができるからです。


◆ 事故を報告する その③


報告書作成のポイント

事故報告書作成の基本は、簡潔明瞭であることです。必要な情報が含まれており、第三者が読んでも事故発生の状況が把握できるようものでなければなりません。事故報告書に限らず、保育記録などの作成でもいえることですが、「5W1H」といわれる事柄が、誰が(Who)、何を(What)、いつ( When)、どこで( Where)、何のために( Why)、どのようにして( How)を意識して文章をまとめることが、事故情報を記録に残す基本です。記載の順番は必ずしも、このとおりである必要はありません。


主語と述語の対応関係を意識し、可能な限り短文で明瞭に書くことを心がけてください。主語がない、文章がねじれているため、わかりにくい文章となっていないか、読み返してみることです。事故報告書の提出前には、主任保育士などがチェックをして、修正を求めることがあってよいかと思います。


事故発生の状況については、時間の経過を踏まえながら、①保育士が何をしている最中に、②子どもがどのようにして事故が起きたのかという視点を定めて、記述するとよいでしょう。事故発生の経緯については、事故が起きる少し前の保育の内容を時間の経過によって事故発生につながっていったのかを明らかにすることが大切です。時系列ごとに、どのような経緯をたどったのか、箇条書きに書き出してみると、書きやすくなります。


こうした文章化する作業によって、事故発生の経緯を客観的にみることができ、事故発生の伏線など事故に対する新たな気づきが得られるものと思われます。事故原因を考えるヒントにもつながっていきます。そのためにも、事故発生の状況の項目欄は、書き込み少しスペースを広く設定しておくとよいと思います。さらには、事故の発生状況を図・イラストで書き表すスペース欄を設けている保育園もあります。


また、事故原因の項目では、「私の子どもに対する見守りが十分でなかった」という記述がされることが少なくありません。しかし、事故報告書は、起こした事故に対する反省文ではありません。事故原因と向き合い、再発防止に必要な対策の提案につなげるという視点が必要です。

たとえば、①危険の予測が可能であったか、②保育の環境や保育士の配置などに問題がなかったか、③保育にあたって、子どもの発達や行動、性格などについて、十分な配慮がされていたか、④保育士の監督状況も役割分担に問題はなかったか、⑤施設設備の保守管理に問題がなかったかなど、事故の経緯を振り返りながら、事故原因と向き合うことが、保育士の課題を発見する力をつけることにつながるものと思います。事故に関わった保育士が、事故報告書の作成において、事故原因の分析ができるようになるには、日ごろから事故事例の検討を積み重ね、事故原因を分析する力をみにつけておくことが大切です。

◆ どのように事故報告書を活かしていますか①


事故防止に向けた第一歩は、保育士の身近に潜む事故の危険に気づくことです。リスクマネジメント活動を通じて、事故報告書を事故の再発防止に役立ててください。

事故報告書は、始末書ではありません。事故の体験を保育士が共有することにより、事故の再発防止に役立てることができるはずです。実際に事故報告書の分析からは、事故について貴重な教訓を読み解くことができます。


こうした事故の情報は、保育園が子どもの安全や命を守る上で、貴重な財産となるはずです。リスクマネジメント委員会においては、事故報告書の内容を日々の保育にフィードバックする、橋渡し的な役割が期待されます。


主任保育士、園長・所長がチェックする


事故報告書のファイルは、安全な保育実践に必要な知識形成に役立つ事故情報データベースに匹敵します。事故報告書は、ヒヤリハット報告と比較して、事故発生の経緯が詳しく述べられており、原因や対策についても言及されています。ヒヤリハット報告と同じように、直接かかわった保育士本人からの報告ではありますが、担任の保育士や主任保育士による聞き取りなどをつうじ、事故発生の経緯や原因についても、第三者による検証がされているものと思われます。こうしたことから、事故防止に役立つ事故データとしての信頼できるのです。


管理者は、再発防止に役立てるという明確な目的をもって事故データを残していくことが必要です。そのためにも、事故が発生し提出された事故報告書については、リスクマネージャ(リスクマネジメントの責任者)あるいは主任保育士、さらには施設の管理者である園長・所長のチェックが必要です。

まず、主任保育士が、事故報告書をチェックする際には、前回述べたように、記述内容が不正確である場合、曖昧である場合には、必要に応じ添削をした上、作成者に対し修正するように求めてください。事故の概要を知らない第三者がみても、事故がどのような経緯で発生したのか、事故報告書から読み取れる内容となっているか確認することが大切です。こうしたことが確実に行われるためにも、事故報告書においても、主任保育士、園長・所長の決裁欄があるとよいでしょう。


事故報告書の回覧・周知


保育所において発生した事故内容を保育士・職員全員が知ることができるように、事故報告書を回覧している保育所もあります。皆さんの保育所では、提出された事故報告書をどのように扱っていますか。ファイルし事務所で保管しておくだけでは、もったいないと思います。


事故報告書は、事故を起こした保育士の反省文と考えれば、保育士でオープンに共有されるべきものではないかもしれません。しかしながら、事故報告書には、保育士全員で共有されるべき貴重な経験が書き描かれています。事故報告書の回覧は、子どもの事故についての共通理解に役立つものです。


実際に、自らの保育所においてどのような事故が起きているのか知らされていませんと、事故に学ぶ機会が少なくなります。事故報告書の回覧においては、保育士は、他人の起こした事故と受け止めず、事故報告書から事故に学び、日ごろの保育を振り返ることが大切です。こうしたことが、事故防止に関する保育所の課題について、保育士の共通理解を形成することにも役立つものと思われます。したがって、提出された事故報告書はその都度回覧することが望まれます。


事故報告書の保管は、管理者が責任をもって行います。ただし、園長・所長の机のなかにしまっておきますと、保育士が事故報告書を読むことが難しくなります。逆に、だれでも持ち出して読むことができますと、紛失してしまうことも懸念されます。事故情報ですから、閲覧のルールを定めたうえで、閲覧を認めることが望ましいと考えます。


役員会における報告

また、社会福祉法人立の保育園のなかでは、こうした事故報告を表にして、理事会・評議員会において報告しているところがあります。あわせて、事故報告書のコピーをファイルしたものを、役員会において回覧していました。理事や評議員から事故について質問や意見を受けることがねらいです。


法人運営においても、リスクマネジメントやコンプライアンスは、重要な検討テーマです。事故の報告は、理事や評議員からも関心がもたれている事柄のひとつです。事故報告書を整理し、隠さず報告することが、健全かつ公正な法人運営につながります。法人組織からも、リスクマネジメント委員会の活動内容に対する理解が得られます。


◆どのように事故報告書を活かしていますか②


事故報告書からは、仲間の保育士の失敗に学びリスクの存在を知ることができます。また、事故報告書の分析から、再発防止のために何が必要かを考える様々なヒントを引き出すことができます。事故報告書の内容を検討し、安全な保育実践に必要な知識形成に役立てください。


事故報告書から原因と対策を考える


医療機関を受診するような事故が起これば、定例のリスクマネジメント委員会においても取り上げられ、事故発生の経緯の検証や原因と対策の検討が必要になります。既に保護者対応などを含め、保育園としてとるべき事故発生後の事後対応も終わっていると思います。しかし、事故発生から若干経過した後で、リスクマネジメント委員会が、定例の委員会において、あらためて発生した事故の経過を振りかえり、原因と対策を検討してみると、あらたな気づきがあるものです。


事故の分析には、SHELL分析を行うことを勧めます。事故の検証には、直接原因となる保育士本人の不注意や施設・備品の欠陥のみならず、背景原因である保育環境や運営管理のありかたも見逃してはなりません。


SHELL分析とは、①システムなど運営管理に関わる原因、②施設・備品などハードに関わる原因、③保育中の環境に関する原因、④事故に関わった保育士本人に関わる原因、⑤子どもや同僚の保育士に関わる原因を考え、必要な対策を検討するものです。事故報告書を検証することで、保育園の運営管理に関わる課題もみえてくるはずです。


事実関係を時系列に整理し、事故発生のプロセスを知る


事故の検証・分析には、事実関係の整理が大切です。背景原因まで検証・分析しようとする場合には、事故が発生する前の保育内容や保育環境のあり方、保育士の動き、子どもの動きに注目する必要があります。表は、時系列を意識して、事故発生前後の状況を、①保育士の動き、②子どもの動き、③保育内容を表に整理したものです。事故報告書に記述されていない情報も聞き取るなどして、事前に表にまとめるなどして、検討資料を作成するとよいでしょう。事故発生のプロセスを把握することで、様々な事故発生の要因がみえてくるはずです。また、①保育士の動き、②子どもの動き、③保育内容について、事故発生の経過を遡りながら、それぞれ「なぜ」「なぜ」と考えてみると、事故発生のプロセスと構造が見えてくると思います。

事故発生の原因についての共通理解の形成


こうした委員会において、提出された事故報告書をあらためて取り上げて、「発生した事故の教訓をいかにして保育士全員で共有するか」など、そこでの議論の内容をリスクマネジメント活動にフィードバックすることが望まれます。事故発生の原因についての共通理解の形成を目的とした園内研修を企画し、事故報告書を活用した事故事例の検討を行って下さい。


もちろん、既に事故報告書は回覧されています。しかし、発生した事故に対する保育士の問題意識にもバラつきがあります。ひと通り事故報告書をみただけかもしれません。職場会議や園内研修を通じて、事故に対する問題意識や、事故発生のプロセス、事故の原因、再発防止に必要な対策などに対する保育士の理解や標準化することが必要です。


保育士が、仲間の事故から学び、自らの保育を振り返ることがされませんと、再発防止につながりません。保育士全員の共通理解の形成がベースにあって初めて、事故防止のチームワークが成り立つのです。事故事例の検討においても、主任保育士などが事故を解説して終わりとしないことが大切です。保育士の学びのためには、保育士の身近にある事故リスクについて、保育士が主体的にかつ互いに話し合うこと、リスクコミュニケーションの確保が大切です。


園内研修において事故報告書を検討することは、実際におきた事故を他の保育士にも追体験させることができます。自分であれば、事故を回避できたかと考えてみる。これまでの経験をもとに、事故の原因を振り返り、日ごろ注意していることを発言する。これによって、身近な事故リスクに対する問題意識の共有に役立つはずです。また、こうした事故事例についての話し合いは、事故経験の少ない保育士の育成にとって有益であるのみならず、保育所の運営管理においても、日ごろの保育の内容を見直すヒントが得られることでしょう。

2011年10月9日日曜日

公立保育所の民営化について考える 神戸市枝吉保育所民間移管

神戸市、市立保育所、枝吉保育所の民間移管について、保護者が神戸市を相手どって訴訟を提起した時に、神戸市から意見書を求められました。

関川が平成20年5月、神戸地方裁判所に提出した意見書です。

裁判は、第一審原告敗訴。最高裁までいきましたが、上告棄却、原告敗訴で終わりました。

実は、私は「隠れ公立保育所ファン」ですが、民営化推進の立場にあるようです。

現在は、京都市の市営保育所の今後のあり方についての審議に委員として関わっています。



1 公立保育所の移管に求められるもの


自治体が公立保育所を廃止する場合には、利用する保護者や子どもの生活と密接に結びついたものであるから、利用する保護者の生活に著しい不便や不都合が生じないように、また保育所に通う子どもの最善利益に十分な配慮を行うべきものと考える。

公立保育所を民間法人に移管しても、当該法人により同じ場所において認可保育所が運営される場合には、利用する保護者の生活には著しい不便は生じない。しかし、児童福祉法においては、保護者には自ら選択した保育所において保育を受ける権利(法的利益)があること、民営化は保育者が全員変わるなど子どもの保育環境に大きな影響を及ぼすものであることなどを考えると、民間移管については、移管法人の選考、保護者に対する説明および意見の聴取、引継ぎおよび共同保育の方法、移管後の保育の内容などについては、十分な配慮が必要である。

(1)移管法人の選考について

 移管先法人の選考は、移管後の保育の質の低下や保護者とのトラブルを引き起こすことのないように、適正に行う必要がある。
保育所選択に関わる保護者の利益を考えると、民営化する法人の選考にあっても、事前に保護者の意見を聴取し、そうした保護者の要望に対しどのように考えるかを尋ね、候補となる法人のそれに対する基本的な考え方などを選考審査においても重視することが望ましい。
公立保育所の民間移管に対し、保護者意見を反映させ、保育の質を確保するため、法人選考にあたって、選考委員に当該移管対象保育所の保護者代表を選考委員に任命している自治体もある。

 移管法人の選考は、法人の理念や移管後の保育所運営に対する考え方、経営体制、保育内容などを総合的に判断し決定することになる。保護者の意見・要望をすべてかなえられない場合もありえよう。しかし、候補となる法人のいずれにおいても、移管後において現在の公立保育所の保育水準を維持することが難しいと判断される場合には、該当法人なしとの選考結果もやむをえないものと考える。

 神戸市枝吉保育所の移管先法人の選定においては、①審査会に保護者委員を選任し、法人ヒアリングを公開で行っていること、②法人選定委員会による選考において、該当法人なしとの判断し、再募集を行っていること③法人現地説明会においても、保護者会代表より保護者会の要望を直接参加法人に対し伝える機会を設けていることなどからすると、保護者の不安に配慮した選考が行われたと評価してよい。

(2)保護者に対する説明および意見聴取

 移管候補となる保育所の保護者に対しては、繰り返し移管の目的や移管後の条件、保育の内容などを説明する必要がある。また、移管先が決定した後においては、自治体は、移管先法人と保護者代表を交えて、移管後の具体的な保育内容や共同保育の体制などについて説明、意見を聴取する機会を設けることが求められる。

移管を前提とする共同保育の在り方や移管後の具体的な保育内容についての協議の入る前に、保護者が民営化について不安に思い民間移管の白紙撤回を求めて譲らないことも想定される。保護者の立場からすれば、移管の目的や必要性を説明されても、「移管対象となるのが、なぜわが子の通う保育所なのか」と納得できないのは当然であろう。民間移管を進める自治体においては、一方的に民間移管のスケジュールのみを説明し、反対という保護者の意見を聴取しただけでは、十分ではない。保護者の不安や怒りに対しても受容し、傾聴・共感しつつ、こうした保護者の意見や要望を、可能な限り民間移管のプロセスに反映させる努力が重ねることが求められよう。

 神戸市枝吉保育所の保護者に対する説明会は、次のように行われている。
 ① 平成17年12月27日
 ② 平成18年 1月29日
 ③ 平成18年 4月23日
 ④ 平成18年 5月28日
 ⑤ 平成18年 6月18日
 ⑥ 平成18年 9月17日 
 ⑦ 平成18年11月 2日
 ⑧ 平成18年12月17日
 ⑨ 平成19年 2月11日 
 ⑩ 平成19年 3月11日
 ⑪ 平成19年 3月17日
 
これをみると、回数を重ねているものの、神戸市が既に決定していた民営化のスケジュールに変更がないこと、提案された共同保育の内容が十分でないことなどから、必ずしも当該保育所の廃止・民間移管に対し保護者の理解を得られなかったことがわかる。こうした保護者説明会の経緯をみると、事態はこう着状態に至っており、保護者から説明会の参加を拒否された段階において、少なくとも手続き的に見る限り、民間移管の担当者に求められる説明および保護者からの意見聴取の努力が尽くされているように思われる。

(3) 引き継ぎ・共同保育について

引き継ぎ・共同保育とは、保育の内容を引き継ぎ、保育士が入れ替わることによる子どもたちへの影響を最小限にするために、移管前に実施される。民間移管を進める自治体が、保護者に対し民間移管後も公立保育所の保育内容が引き継がれることを約束する以上、引き継ぎ・共同保育体制やスケジュールについても、十分な情報提供と説明が求められる。

① 移管先法人決定された後、当該法人に対し、公立保育所の実施してきた体制について、保育方針や指導計画、各種行事、給食、保健・衛生などを定めた書類を移管法人に引き継ぐことになる。移管先法人にとっては、これまでの公立保育所の保育内容を引き継ぐことが、移管の条件とされることが通例といえる。また、移管後においても、こうした内容が引き継がれることに対し、自治体は責任をもつ必要があると考える。

② 共同保育は、移管後の保育を適切に行い、保育士が入れ替わることにともなう保育環境の変化が子どもたちに与える影響を最小限度のものにするためのものであり、共同保育の実施に当たっては、子どもの最善利益を尊重し、十分な配慮が必要である。
まず、共同保育を始めるに当たっては、自治体および移管先法人により「共同保育計画」を作成し、保護者に提示することが大切である。次に、こうした「共同保育計画」について、保護者側からの意見を踏まえて、自治体、移管先法人、保護者代表の三者によって協議した上で、共同保育を始めることが望まれる。

③ 共同保育の期間は、二ヶ月から六ヶ月まで自治体によって様々であるが、三ヶ月とする自治体が多いように思われる。共同保育の期間が三ヶ月で十分かどうかは、実施される共同保育の体制や内容に関わってくるので一概にはいえない。共同保育の趣旨が、保育環境の変化が子どもたちに与える影響を最小限にするものであることからすれば、子どもたちの様子をみながら共同保育の期間が相当であるか否かについて検討する必要があるように思われる。

実施される共同保育の体制や内容、移管先法人の保育士の力量、保護者の理解、子どもたちの状況などに応じて、事例によっては三ヶ月で十分の場合もあろう。しかし、三ヶ月では十分でない場合も考えられる。したがって、当初の計画通り共同保育を実施しても、子どもたちの状況からみて、従来の保育士の関与が必要と考えられる場合には、移管後も共同保育を続けるなどの柔軟性が必要である。

④ 神戸市が当初予定していた共同保育の体制や方法で十分であったかどうかについては検証できない。しかし、神戸市枝吉保育所の移管において実施された共同保育の体制は、手厚いものであったということができる。
共同保育は、4月6日から6月30日まで行われているが、実施当初から神戸市枝吉保育所の保育士20名(パート6名を含む)と移管先法人の保育士12名によって共同保育が始められている。

共同保育計画をみると、子どもとの関係、保護者との関係に注目し、年齢別のそれぞれのクラスごとに、こまやかで具体的な課題が設定され2週間ごとに見直している。
最初の一カ月は、公立保育所の保育士が主体となって保育を行い、移管先法人の保育士が補助に入りつつ、公立保育園の保育内容や子どもの状況の把握に取り組んでいる。次の一カ月は、移管先法人の保育士が主体となって保育を行い、公立保育所の保育士が補助に入りつつ、「クラス全体の一日の生活を見通して保育を組み立てる」など具体的な課題を設定し、これに対する公立保育士の気がついたことなどを意見交換しつつ、公立保育所の保育の質を維持するべき留意点を一つひとつ確認し、共同保育を実施していることが確認できる。

また、共同保育が終了後移管した以降も、公立保育所の保育士を一定数毎日終日配置させ、直接保育に関わらないものの、保育の見守りや確認を続けている。移管後最初の一ヶ月の体制は、以前の所長と保育士、計5名が終日配置され、移管先保育所の保育士の保育を見守り、移管先保育士による保育について気がついたことを法人に伝えるなどし、フォローアップに取り組んでいる。さらに、次の二ヶ月は、以前の所長と保育士、計3名が配置されフォローアップを続けている。移管先保育園の保育士から運動会などの行事についての相談を受けアドバイスするなど、保育内容の継承に役立っている。

こうしてみると、枝吉保育所における共同保育およびフォローアップは、4月から9月末まで6か月行われており、子どもたちの影響を最小限にし保育の質を確保するために必要な措置がとられているものといえる。

また、移管先法人も、公立保育所における保育パートを保育士に採用し、慣れ親しんだ保育士がすべていなくなるということのないように配慮している。移管先法人おける優れたパート保育士の継続雇用は、公立保育所の保育の継承にも有効であろう。
以上のように、実施された共同保育の体制および内容、保護者に対する説明・協議も丁寧に行われていることを考えると、移管後の保育の安定や継続に配慮しつつ、子どもたちに及ぼす影響を最小限にするための措置がとられているものと評価することができる。

2 公立保育所の民営化による保育の質の低下について


公立保育所は、子どもの最善利益を優先し、保育所保育指針もとづきに一人ひとりの子どもの発達を尊重する保育に熱心に取り組んできた。公立保育所の民間移管によって、移管後に保育の水準が低下し、子どもの育ちに重大に影響が発生するものであってはならない。
公立保育所を民間移管しようとする自治体は、公立保育園における保育準の継承を大切にし、移管後も移管先法人の行う保育の質に対して適切な関与を継続する必要がある。民間移管によっても、同一水準の保育を確保することは、民間移管を実施する自治体の責任でもある。

(1) 公立保育所並みの保育水準を確保

公立保育園を廃止し民間保育園に移管すると、必ず保育の質が下がるというものではない。確かに、移管先法人が引継ぎ条件を誠実に守っているとしても、保育士集団が異なる以上は、まったく同一の保育を行うことはありえない。しかし、公立保育所と比較しても、遜色ない水準の保育を行う民間保育園も存在する。これらをみると、民間保育所が、公立保育所と比較して、必ず保育の質が劣るという客観的な裏付けは乏しい。民間移管をしても保育水準が低下しない法人を選考し、公立保育所と同水準の保育を確保することは可能であると考える。

移管先法人に対し、移管後しばらくして第三者評価を受審することを義務付け、評価結果を公表させる自治体もある。また、保育水準の確保のためには、移管後の保護者アンケート調査の実施、自治体との意見交換の実施、苦情解決に向けた自治体の指導も必要である。また、こうしてもなお移管先法人として求められる保育の水準を確保できない法人に対して、自治体として、どのように対処するのかも明らかにしておくことが望まれる。


(2) 保育の質について

公立保育所を利用している保護者のうちには、公立保育所の保育の質が高いことから公立保育所を選択した者も少なくない。こうした保護者は、民間保育園は質が劣ると考えているので、公立保育所の民営化=保育水準の低下と受け止めてしまう。

保育の質に関する議論は、保育に関する研究者の間でも、評価の軸や対象が食い違うと、話がかみ合わない。「公立保育所は、保育士の加配があり、経験豊富なベテラン保育士が勤務しているので、質が高い」と信じて疑わない研究者もいる。こうした立場からは、民間移管は保育の質の低下、公的責任の後退をもたらすものとされる。

保育の質は、設備ハード面の保育環境、一人ひとりの子どもの発達に配慮した保育の内容、多様なニーズに応じた保育事業の内容、保護者への対応、質の改善の仕組みや実際の取り組み、利用者満足など、さまざまな面から総合的に評価しなければならない。保育士の経験年齢は、保育の質に関わる要素のひとつではある。

しかし、経験豊富な保育士が多い公立保育園のなかでも、保育の質にはバラつきがある。公立保育所においても、事故は存在するし、子どもの受容が十分でない、保育士の連絡ミスなど、保育の質に関わる保護者からの苦情もある。経験年数だけで保育所の良し悪し、保育の質が決められるものではない。

(3) 保育の質の評価

医療や福祉の質については、「構造」「プロセス」「成果」の三つの側面から評価する手法が考えられている。構造とは、保育園の園舎、園庭、設備、職員配置の体制などが含まれる。保育所運営の基準にもとづく監査などは、主として構造に関し評価するものといえる。プロセスとは、保育を実施する手順や方法に対する評価である。福祉の第三者評価は、こうしたプロセスの評価を行っている。また、第三者評価における保育の追加基準は、保育所保育指針をもとにした基準である。成果に対しては、利用者の満足などが評価の対象となる。利用者満足度調査などの評価手法がある。

公立保育所の民間移管において、枝吉保育所の移管のように、既設の建物を移譲する手法をとる場合には、保育士の配置人数が同一であれば、構造評価からみると、保育の質に大きな違いはないので、概ね移管前と同水準の保育を受けることができるといえる。

したがって、保育士の経験年数の違いが保育の質に反映されるとすれば、プロセス評価や成果評価に表れるものと考える。しかしながら、福祉サービス第三者評価における評価結果から見る限りでは、民間保育園が明らかに公立保育所と比較し劣るといえない。前述の保育に関する追加基準、保育計画、保育環境や保育内容、事故対応からみても、すべて(a)評価の民間保育園も珍しくない。

大阪府社会福祉協議会による保育の第三者評価に関わっている経験からいえば、高い保育の理念を掲げ、子どもの最善利益を尊重し、国の定めた保育指針にもとづき、子ども一人ひとりの育ちを大切にする保育の実践に取り組む民間保育園がある。こうした民間保育園では、若い保育士が多いという部分を保育士のチームワークで補い、公立保育所と比較しても遜色ないほどの質の高い保育の実践ができているところも少なくない。なお、公立保育園の受審件数は少ないが、受審したすべての公立保育園がすべて(a)評価というわけでもない。

また、利用者満足という立場から、成果を評価する限り、公立保育所と民間保育所を利用する保護者の満足度に大きな違いはみられないように思われる。既に幾つかの自治体が行っている調査からは、むしろ、公立保育所の利用者の方が満足していないという評価結果も存在する。公立保育所であるから利用者の満足が高いというわけでもない。

(4) 移管後の保護者自身の評価

 公立保育所の民間移管においては、移管後トラブルが多い保育園の例が紹介され、保護者側においても子どもに重大な影響がでたらどうしようと不安が広がる。これが、わが子が笑顔で新しい保育園に通うようになると、民間移管に対する保護者の評価も変わる。

移管後しばらくして、保護者に対しアンケート調査を行ってみると、大部分の保護者が移管先の民間保育園による保育の質に対し不満や不安もっていないことがわかってきた。神戸市においても、こうしたアンケート調査を行っているが、同様に他の自治体によるアンケート調査でも同じような結果となっている。

 先行し公立保育所の民営化に取り組んできた尼崎市は、平成十年度から移管した15カ園すべてについて、その保護者に対し「民間移管保育園における保護者アンケート」を実施した。これによると、以下のような個別の保育内容に関する質問に対し、大部分の利用者が「満足」「概ね満足」と回答している。

 保護者の意見や提案を話したり伝えたりすることについて(78.4%)
 保護者の意見や対案に対しての対応について(76.1%)
 子どもの保育に対する保育の熱意や愛情について(88.1%)
 送迎時の対話や連絡帳などで、お子さんの日々の様子を知ることについては(84.7%)
 散歩や園庭での遊びの機会については(86.1%)
 図画工作、絵本、音楽など様々な体験ができるような配慮については(84.2%)
 運動会や生活発表会などの行事の内容については(73.6%)
 子どもの発育を促すような遊具やおもちゃなどの玩具については(84.2%)

同調査では、公立保育所から引き続き民間移管した保育園に預け、現在でも子どもを保育園に預けている保護者を対象とした質問項目を設けているが、9割近い保護者が民営化により保育園が変わることに「不安があった」「不安が少しあった」と回答していた。これに対し、7割以上の保護者が「現在はその不安は解消された」と回答している。

アンケートからは、子どもは喜んで通っており、保護者は安心して子どもを預けていることも、明らかになっている。これらをみると、公立保育所と比較し、保育士の経験年齢に違いがあっても、移管後の保育園に対する保護者自身の評価では、保育の質が落ちて不満足という評価結果となっていない。